日本はその高いサービスクオリティで知られる「サービス大国」として、国際的に高く評価されています。外国人の視点から見ると、日本のサービスの質の高さは、細部にわたる事前の計画と多様なシナリオへの対応能力に起因しています。これにより、サービス提供時のトラブルが少なく、顧客にとってスムーズで快適な経験を実現しています。このようなサービス水準を維持するためのキーとなるのは、優れたチームワークと、ボトムアップで民主主義的なアプローチ、さらには消費者の厳しい目とメディアの関与といえます。
しかし、この日本式のアプローチがベトナムのような異なる文化・社会環境で同じように機能するかというと、様々な外部的要因により難しいと考えられます。ベトナムでは以下のような理由から、日本のサービスモデルの直接的な移植には課題があります。
サービス品質の向上には、スタッフの育成が極めて重要です。効果的な育成方法として、チェックリストの作成、朝礼でのコミュニケーション強化、おもてなし研修の実施などがありますが、これらの取り組みが十分な成果を上げられないことがしばしばあります。その理由は複数あります。
まず、チェックリストは有効なツールですが、一度作成されると更新されないことが多く、実際の状況の変化に対応できなくなることがあります。このため、スタッフは形式的な作業を繰り返し、本質的なサービス提供能力の向上が見られない場合があります。
次に、朝礼ではスタッフが自主的に意見を述べることを促すべきですが、実際には参加者が沈黙を守りがちで、結局は上司が一方的に情報を伝える場となってしまうことがあります。これでは、チーム全体のコミュニケーション促進や意見交換の場としての機能を果たすことが難しいです。
おもてなし研修も、研修中はスタッフが積極的に学ぶ姿勢を見せるかもしれませんが、日常業務に戻ると研修で学んだことを忘れがちで、新たな取り組みが定着しないことがあります。
また、ダブルチェック制度は理論上はミスの発見と修正を助けるものですが、実際には最終チェックを行うスタッフに適切なインセンティブが設定されていないため、モチベーションの低下を招くことがあります。これにより、改善のスピードが遅れ、チェック作業が負担となり、不公平感を生じさせることもあります。
そこで、アメリカ式の手法を取り入れることで、良い結果を得られた方法があります。簡単に言えば、全ての業務をKPIで数値化し、月ごとにKPIに連動して給与を支払う方法です。これは非常に有効ですが、日本人の思想にはやや合わない面があります。また、導入時には複雑なシミュレーションが必要なため、大企業には適しているかもしれません。
一方、地方の企業では別の効果的な方法があります。それは、提供するものが不完全であることを承知で、直接お客様に提供する方法です。確かにこれによって顧客の評価が下がり、会社のイメージを損なうことは大きなデメリットですが、ダブルチェックがないため、直接お客様とのやり取りを通じてスタッフの緊張感を高め、責任感や主体性を引き出すことが、実は最大の利点です。スタッフ育成のためには、ある程度の顧客離れも覚悟の上で、このやや荒削りな方法を採用する価値があるかもしれません。長期的な視点で見れば、これが納得できる方法と言えるでしょう。
もちろん、留意すべきポイントはいくつかあります。
日本では「お客様は神様」という考えが根強く、最高のクオリティを提供することが常識とされています。しかし、ベトナムのような国では、顧客の信頼をある程度犠牲にしながらも、スタッフ育成に利用する考え方も存在します。原始的と思われるかもしれませんが、シンプルで効果的な場合も少なくありません。
プロフィール
Nguyen Dinh Phuc
E-mail: phuc@hri-vietnam.com
Tel: 097 869 8181
Kyoto大学を卒業し、日本政府からの奨学金を受けました。 ・日本での10年間の学びと仕事 ・ベトナムでの3つの企業の経営経験15年 ・著書「新入社員のための心を打つ58++の教訓」の翻訳と出版
・専門分野:リーダーシップ、ロジカルシンキング、問題解決、時間管理、及び日本文化の理解に基づく企業文化の向上に関するコンサルティングサービスを提供しています。
・実績:日本の大手鉄鋼会社、空調設備のリーディングカンパニー、及びIT企業等に対し、専門知識を生かした講義や研修を実施してきた経験があります。