日系企業のローカライズは以前から話題になっていますが、実際にはあまり進んでいないと感じます。まず、ローカライズが本当に必要か、そしてなぜ進んでいないのかについて考える必要があります。
多くの日系企業はローカライズが必要ないと考えています。理由は、ベトナム市場に進出するのではなく、生産拠点として位置づける企業が多いためです。この場合、本社との関係が最も重要です。なぜなら、本社が唯一のお客さんだからです。そうであれば、本社から誰かを駐在させれば、本社との人間関係が既に構築されているため、スムーズに連携ができます。
これを象徴する事例があります。
私の日本留学時代の先輩がいます。非常に活発で有名な先輩でした。大手銀行に定期採用され、数年勤務した後、ベトナムに転勤しました。しかし、銀行では彼女の能力をフルに活かせず、ある製造企業にヘッドハントされ、副社長の座をオファーされました。製造業は彼女にとって未経験で、女性であり、管理者の経験もないことを正直に会社のオーナーに明かしましたが、それにもかかわらず信頼され任されました。入社後すぐに本社の役員になり、経営会議などに定期的に出席するようになりました。そして、入社十年目に社長に就任しました。これは、優れたリーダーを見つけ、ローカライズを実現した良い事例です。数年後、家庭の事情で海外移住したため、社長の座は日本から派遣された日本人が引き継ぎました。
この事例から言えるのは、リーダーシップのある優秀な人材を見つけ、長い年月をかけて本社との人間関係を構築することで、ローカライズが可能になるということです。しかし、生産拠点として位置づける企業では、ローカル人材による経営は必ずしも必要ではないと考えます。
ベトナム現地市場を狙っている企業についてはどうでしょうか?一般的には、現地に根付いたビジネスであれば、現地の人材が商品開発や販売網の構築、経営管理を行うのが効果的だと考えられます。その形で成功している会社もあります。
例えば、日本の大手スパークプラグメーカーの事例があります。十年ほど前に採用された営業部長が非常に優秀で、しっかりとした販売網を築き上げました。テレビや新聞広告にも積極的に取り組み、知名度を上げて売上も達成しています。最終的に、その営業部長は数年前にベトナム現地法人の社長になりました。これも成功事例と言えます。
一方で、即席麺の大手企業の事例があります。最初は合弁で会社を設立し、「日本クオリティ」という謳い文句で高価格で販売しましたが、全く売れずに苦戦しました。その後、R&D活動で良い商品を開発し、適切なネーミングや販売チャネル、広告を駆使して爆発的に売れ、商品名が広く認知されました。結果として、大きな会社へと成長しました。
その成功の裏にはベトナム人の副社長がいて、すべてのマネジメントを一手に引き受けていたそうです。その後、そのベトナム人副社長が海外移住することになり、現在は日本人が社長を務めて会社を引っ張っています。この事例も、現地の優秀な人材による経営が企業の成功に繋がった例と言えます。
ベトナム現法と本社を合わせて一つの会社組織と考え、その時点で最もふさわしい人材をベトナム現法の社長にすれば良いというのであれば、その時々でローカル人材や本社からの日本人が会社経営を担えば良いと思います。しかし、コスト面を考えると、海外での人材育成コストは断然安いですし、現地で優秀な社員を見つける可能性の方が本社よりも高いはずです。この観点からも、長期的にローカル人材を教育し、継続的に経営者を育成するのが良い判断と言えるでしょう。
日系企業が現地法人を経営者の育成現場として捉える日が実現することを願ってやみません。
プロフィール
Nguyen Dinh Phuc
E-mail: phuc@hri-vietnam.com
Tel: 097 869 8181
Kyoto大学を卒業し、日本政府からの奨学金を受けました。 ・日本での10年間の学びと仕事 ・ベトナムでの3つの企業の経営経験15年 ・著書「新入社員のための心を打つ58++の教訓」の翻訳と出版
・専門分野:リーダーシップ、ロジカルシンキング、問題解決、時間管理、及び日本文化の理解に基づく企業文化の向上に関するコンサルティングサービスを提供しています。
・実績:日本の大手鉄鋼会社、空調設備のリーディングカンパニー、及びIT企業等に対し、専門知識を生かした講義や研修を実施してきた経験があります。